第1章「一期一会」
――彼らは出会った――


「どこにいるんだ?カイルってやつは」

 盲目の賞金稼ぎ・マークは途方に暮れていた。
 彼の次なる標的はデスカンベラーというヘラサーテ王国の北に位置する大都市にいると、情報が入った。
 それにもかかわらず、見つからない。

 大体、この街はでかすぎるんだよ!

 マークは仲間から引き継いだこの仕事にうんざりしていた。

 ちょうど、十日ほど前のことだ。
 彼のところに昔なじみの男がやってきた。
 男は言い出しにくそうに始めは水ばかりを飲んでいたが、しばらくしてようやく要件を語り始めた。
「名はカイル。年はお前と同じ十四歳だと思う。長旅をしているらしく外套を身にまとっている。容姿は眉目秀麗。綺麗な顔立ちをしている。 だが腕は立つぞ。だれもまだ手が出せないんだ。賞金は……500,000レンド」
「500,000レンド!?」
「やってくれるか?」
「…………」
 しばらくマークは窓のほうに顔を向けながら考えたが「わかった」と一言。
 男は「そうか」と短く礼を述べると席を立った。
「なぁ……。奴に会ったんじゃないか?」
 男はぎくりとマークを見る。
「そんな言い方だったぜ」
 男はため息まじりに「あった」とつぶやくと部屋から出て行った。
 マークもため息をつく。

「目が見えない代わりに俺は人のオーラが見えるんだぜ。何かあるかないかぐらいばればれなんだよ」
 男の言動に歯がゆさを感じながら、ぼんやりと歩くマーク。
 彼は幼い頃に両親を殺され、そしてその時、光を失った。
 父の親友であった賞金稼ぎのリコウスにひきとられたマークは、目が見えないながらも彼への憧れから同じ道を歩もうと必死に修行し、いまや盲目とは思えないほどに成果を挙げていた。
 それを可能にしたのは修行中に会得した、人のオーラを見ることのできる能力――。
 それにより目では決して見ることのできない人の心の動き。怒り。悲しみ。喜び。
 努力だけでは培われない天性のものがあったろうが、マークはそれによって普通の生活も営めるようになったのだ。

 それにしても、あの男の動揺。
 一体、そいつは何者なんだ?

 男が言っていた少年の情報を整理してみる。
―――奴の名は……カイル
 年齢は……14歳らしい。
 格好は……外套を身にまとっている。
 そして、
 賞金は……500,000レンド!―――
 何をやらかして賞金首になったのか定かじゃぁない。
 と、いうより彼ら賞金稼ぎにとってはどうでもいいことだ。
 やるかやれるかじゃぁない、おいらがやるんだ!!

 ドン!!

 突然、マークは何かにぶつかった、それも思いっきり地面に尻もちついて。
 一瞬、何が起こったのかよくわからずぼんやりとしたが、すぐにわかった。
「ごめん、考え事してた」
 誰かがマークに手をさし伸ばし、彼を起こす。
 そして、彼の服についた土ぼこりを落とそうとしたがマークはすばやく身を引き、構えた。
 マークは腰にさしている短剣に手をかけて、臨戦態勢に入る。
 じりじりと間合いを取り始める、マーク。
 彼がいるのがデスカンベラーという大都市の通りだということはもうすでに彼の頭の中には残っていない。
 彼が今考えていることは、ぶつかった相手。
 奴はぶつかるまで…………オーラをまったく感じなかった!!
「おまえ、何者だ?」
「えっ!?」
 そいつは今は感じることのできるオーラを動揺させながら言葉を探しているようだった。
「んんん……。旅人って奴かな? 君こそ何者?」
「おいらはしょうき……旅人だ」
「なら一緒だ。物騒なものはしまってくれ。その……コホン……。みんな……見ているから」
「ん?」
 一気にマークは自分たちの周りを囲むようにして見物している大勢の野次馬のオーラを感じた。
「…………! 」
 慌てて短剣をしまうマーク。
「みなさん。ご静聴ありがとうございました。当劇団の芝居は来週コレン広場にて上演いたしますのでよろしく!」
 そいつはフードをとり野次馬たちに大げさに一礼し、にっこりと微笑んだ。
 とたん、
「きゃぁあああ、かっこいい!!」
「絶対見に行くわぁ!」
「すてき・・・!!」

――?――

 黄色い声があちこちから矢のごとく降り注いだ。

――?――

「君、行くよ!」
「?」
「どうも!俺たちはこれにて……」
 いうやいなや、マークの手を引っ張ってその場を退場して行く、桃色の声を二人背に受けながら。

――?――

 さきほどの場所からだいぶ離れた場所でそいつはやっとマークの手を離した。
「さっきはぶつかってごめん。悪気はなかった。ほんとに」
「いや……。おいらこそ……」
 毒気をとうに抜かれたマークはそう言うしかなかった。
「悪ぃかった、すまん。つい、職業病みたいなやつかな」
「……、並みの身のこなしじゃあないようだけど、……聞かないでおくよ」
「悪ぃな」
 そいつはマークの顔を見、あっ! と小さく驚いた。
「君……目が……?」
「あぁ」
「すごいな、全然わからなかった」
「どーも。あんたも腕に自信ありげだぜ」
「おたがい、いろいろあるってことかな」
「だな」
 二人はクスッと小さく笑った。まるで、ずっと前から知っているような……。
「俺……、そろそろ行くよ」
「あぁ、おいらも行かないと」
「じゃ……」
 短く別れのあいさつを交わし、そいつは外套を翻して去っていく。
 マークは自分でも分からない何かに押されて、去っていくそいつに声をかけた。
「おーい! おいらマークっていうんだ! またどっかで会うかもな!」
 その声が届いたのか、そいつは振り向いた。
 「そうだな! 旅を続けていたらまた会うかも!」
 そして……、
「俺の名は……カイル!またな、マーク!」
「…………!」

――――――名はカイル。年はお前と同じ14歳だと思う――――――

 カイルなんて名前、どこにでもあるじゃねえか。
 今あった奴がそいつだという証拠があるのか?
 だが、本当はわかっているんだ。
 奴かもしれないってこと。
 確かめよう。
 そうだったら、捕まえればいい。でも……。
 そうして、マークはあの少年の跡をつけていった。
 彼の長い旅がこうしてここからはじまったのだ。

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