――永遠の泉の……――
朝焼けのやけにまぶしい朝。
カイルはソーテスト砂漠が広がるゼランコートという小さな村にいた。
ヘラサーテ王国は南北に広がる国で、デスカンベラーの町を半月ほどかけて南下し、カイルはここまでやってきたのだ。
ある、目的のために………。
「まだ、涼しいな。暑くなるのはこれからか」
砂嵐がよくやってくるこの村ではカイルがいつもしているフードは必需品だ。
砂漠のオアシス的土地柄のせいか外套をはおった旅人たちがこの小さな村の通りを行き来している。
ここならあまり目立つこともあるまい。
彼にとって、いまは太陽の光さえありがたい。自分の素性を隠すことができるから。
カイルは服の中に入れていた小さな紙を広げ、何かを確認すると、近くにいた少女に声をかける。
彼女は最初面倒くさそうに彼を見たが態度を急に和らげ、親切丁寧に説明をした。
「そうか、ありがとう!」
カイルは少女に笑顔で礼を述べると彼女に教えてもらった方向へと進んでいった。
その様子を離れた場所から気で感じ取っていたマークは、カイルが路地を曲がったところで、すかさずその少女に話を聞きに行く。
「なぁ、あんた。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
しかし、反応はゼロ。
「なぁ、おい!」
「ん?」
やっと返事を返した少女だったが、心ここにあらず。夢うつつの状態――。
「おいってば!」
なんとか少女は現実世界に戻ってきたがその表情は―――。
「なによ、さっきから! 人はいい気持ちになってるのに!!」
その勢いに押されそうになったマークだが、目的を遂げなくては。
「さっき、男と話をしていただろ? 何を話していたんだ?」
すると少女はさっきまでの苛立たしい表情を変え、遠くを見るような夢心地の表情をして答えた。
「さっきのお方?」
(お方?)
「とってもハスキーなお声で私に話しかけられたの」
少女の周りが桃色の世界に変わっていくのをマークは引きつりながら感じていた。
「瞳はまるで深い森のよう。柔和な笑みは高貴な華のよう。そして――」
「わ、わかった! もう、わかったから!」
ここいらで止めないとこいつは一日中だって変な話をし続ける、マークは心底そう思った。
「え、いいの? 彼がどこに行きたいって言ったのかを聞かなくても」
そういうことは最初に話せよ、と怒りたくもなったがそこは我慢―――。
「どこに行ったんだよ」
「マグタークの店。武器商人っていえば誰だって知っているわ」
*****
彼の店は雑多な店々の中に埋もれるようにあると少女に聞いていたカイルは、人にききながらその店へと足を向けていた。
日が高くなるにつれ、次第に気温も上がってきているようで喉が渇く。
あちこちの店先には『永遠の泉の水あります』の看板がまるで争うかのように立て掛けてあり、客の興味をそそる。
「すみません、ちょっと聞いてもいいかな?」
カイルは店番のちょっと小太りなおばさんにその看板のことを尋ねることにした。
「なんだい? どんな品がいいのかい?」
カイルは看板を指差す。
「永遠の泉って何ですか?」
「あぁ、これかい? これは村のはずれにある小さな泉のことさ」
「村のはずれ?」
「その泉の水を村の広場の噴水まで引いて、湧き水として開放していたんだけど、まぁ、通行料みたいなもんさ。無料開放って訳にはいかないからね」
「?」
「ここはオアシスみたいなもんだからね、旅人にとっちゃぁ。このゼランコートの村を抜けたらソーテスト砂漠だから、この村でみんな
最後の水調達って訳。あんたも買っといた方がいいんじゃないのかい? 安くしとくよ」
「いや……またきます」
「あはっ。そうかい、待っているよ」
「はぁ」
泉のことが知りたかったんだけど……いつのまにか水を買わされそうだったな。
カイルはおばさんの商売根性に気をされながらもなんとかそこを抜け出した。
すると、店々の建ち並んでいる先の広場に人だかりができている。
そこから少年の歌声が聞こえてきた。
神の祝福を一身に受けたような心地よいその調べにカイルは引き込まれるように向かう。
その彼は噴水に腰を掛け、テルーナという5本の弦からなる弦楽器を弾きながら、花園を吹き抜ける風のような爽やかな歌声を観衆に思う存分に聴かせていた。
年は16・17ぐらいだろうか。銀色の短髪がさらりと流れ、どこかの国の貴族を思わせる精練された風格。小さな碧玉が中央に埋め込まれた
金色の流れるようなティアラがいっそう、その雰囲気をかもし出していた。
《神が聖なる杖を突き湧き出した、枯れる事を知らぬ永遠の泉。降臨した神はやがてその地より再び昇天される》
ポロローン……――
わっ!
曲が終わると一斉に観衆が割れんばかりの拍手と歓声を上げた。カイルも拍手を送る。だが、歌声も気になったのだがもう一つ……。
「べラスナード!?」
カイルは思わず名を叫んだ。べラスナードと呼ばれた少年はカイルをみてその碧眼で優しくにっこり微笑みかけ、
「お待ちしておりました」
と、他の人には聞こえないようかすかに言って立ち上がると、彼に歩み寄りこっそりと耳打ちをし、再び観衆のもとへ戻っていった。
そして、再びテルーナを奏で始める。観衆は美しい歌声を聴くことができると歓声を上げた。
だが、カイルはべラスナードが耳打ちした言葉を吟味し、チラリとあたりをうかがう。
まだか――
そして、その人だかりから遠ざかり、何かを避けるようにマグタークの店へと急ぐ。
*****
ちょうどその頃、マークはマグタークの店の前にカイルよりも先に到着していた。
マークはもう到着しているはずの彼の気を探る。しかし――、
ん? あいつの気を感じねぇな。そういや、前も気を感じなかったが……。
不思議に思っていたその時、
「あれ、マーク?」
聞き覚えのある声が後ろから……。
「こんなとこで会うなんて不思議だな」
あ、カイルだ。
尾行失敗――。
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